泡洗顔にご用心
泡洗顔は正しい洗顔方法です。
泡がふわふわしていれば、洗顔時の摩擦が減り肌や毛穴へのダメージが軽減されます。
しかし、逆に言ってしまえば、ふわふわの泡のメリットはただそれだけのことなのです。
単に物理的接触によるダメージを軽減するというだけで、ふわふわの泡の正体が洗剤であるという事実は変わりません。
「泡洗顔=肌に優しい」と思っていると手痛いしっぺ返しを食うことになります。
ふわふわして優しそうな泡が、実は毛穴の黒ずみを生む最大の原因でもあるのです。
ふわふわの泡が肌に触れると?
洗顔料の泡を肌の上にポンと乗せると、その瞬間から二つのことが同時に進行します。
一つは、油汚れの分解。
もう一つは、細胞間脂質の分解。
細胞間脂質というのは、肌の保湿成分です。肌に含まれる水分量の約80%を抱え込んでいる、いわば“保湿の要”ですね。
細胞間脂質はセラミド等から構成されています。高価な化粧水のなかには「セラミド配合!」を謳ったものがありますが、それらが補おうとしているのがまさにこの細胞間脂質なのです。
そんなリッチな保湿成分を洗顔料の泡は容赦なく分解してしまいます。
私が至るところで「数万円の化粧水を使うよりも、洗顔時間を5秒縮める方がはるかに保湿に効果がある」と言っているのはそのためです。
外から補うセラミドの効果は、肌が自前で持っているセラミドの足下にも及びません。数万円の化粧水の効果など、洗顔時間が数秒間長ければ簡単に吹き飛んでしまうのです。
洗剤=油を溶かし出すもの
細胞間脂質を分解せずに汚れだけを分解する洗顔料は存在しません。両者は必ず同時進行します。
これは洗剤というものの性質上どうしようもないことです。
洗剤は油を水に溶かし出すために存在します。
何か物を洗うときに洗剤を使うのは、水洗いでは落ちない油性の汚れを落とすためです。
本来なら水は油に弾かれてしまうため油性の汚れは落ちづらいのですが、そこに洗剤を混ぜると油が分解されて水に溶け出すようになるのです。
洗顔に洗顔料を使うのも、皮脂などの油汚れを効率よく落とすためですね。
しかし問題は、大切な細胞間脂質も“脂質”と言うだけあって“油”であるということです。
洗剤は汚れとしての油も保湿成分としての油も区別しません。どちらも平等に分解して水に流します。
手を洗う回数が増えたり食器洗いをすると手の肌が荒れるのは、洗剤の力で細胞間脂質が溶かし出されて肌が乾燥するためですね。
洗顔は時間との闘い
洗顔料の泡が肌に触れている間は、細胞間脂質が溶かされつづけます。
それゆえ、洗顔は時間との闘いです。洗顔時間が長ければ長いほど、肌から失われる保湿成分も多くなります。
もちろん、皮脂などの油汚れもある程度まで落とす必要がありますから、洗顔をまったくしないわけにはいきません。
洗顔は「保湿成分を犠牲にしてどこまで汚れを落とすか」という問題なのです。
幸いなことに、肌に組み込まれている細胞間脂質よりも、肌の上に乗っかっている油汚れの方が流れやすくなっています。
そのため、洗顔開始直後に溶かし出されるのは大部分が油汚れです。
そこから肌の上の汚れが減るにつれて細胞間脂質の割合が高くなっていき、汚れがあらかた落ちきった後はひたすら細胞間脂質が分解されていくことになります。
つまり、洗顔時間が経過すればするほど、肌にとってメリットよりもデメリットの方が大きくなっていくということです。
洗顔時間は30秒が限度
具体的には、洗顔料が肌に触れている時間は30秒以内にしましょう。
これより短くても構いません。洗顔が長すぎるのに比べれば、汚れが多少残ってしまうことなど大したことではありません。
洗顔料の力は強力です。洗顔で落ちる汚れの大部分は最初の10秒の間に流れています。
皮膚科医の北原東一氏の言葉を借りれば「石けんで洗っている時間は5秒でもいいくらい」(『誤解だらけのスキンケア』p22)なのです。
ただ、洗顔時間を短くすることで洗い方が乱暴にならないようにだけ注意しましょう。
洗顔料の泡を肌に優しく塗り伸ばしたら、それ以上は何もせずに洗い流していいのです。
慣れないうちはちゃんと洗ったような気がしなくて気持ち悪いかもしれませんが、落とすべき汚れはそれで十分に落ちています。
指でクルクルとマッサージしたり、小鼻のあたりを軽く擦ってみたり、そんなことをすればせっかくの泡洗顔が台無しです。
泡洗顔の最大のメリットは、指が肌に触れずに洗うことができるという点にあるのですからね。